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私が家を建てたのはもう30年近くも前のことです。
高度成長期のさなか、高騰する地価と建設費を横目で睨みながら、早く土地を買
い早く家を建てることが少しでも安く家を持つことができると思われていた時代で
した。
その数年前には住宅金融公庫の融資を受けるにも抽選があったほど誰もが不動産
を取得しようと血眼になっていた時代でした。
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今考えると恥ずかしい話ですが、建築の専門家の私も「どんな家を造るか」を考える余裕もなく、「手持の僅かな貯金と自分の所得から計算できる借り入れ限度一杯の借金で手に入る家を買った」と言うのが偽りのない事実です。
その家を建ててどんな生活ができるのか、自分はどんな暮らしをしたいのかを考える余裕も持っていませんでした。
今、「家を建てよう」あるいは「マンションを買おう」と考えている方は当時の私に比べれば余裕を持って「どんな家が欲しいか?」を考える余裕があると思います。少なくとも「急いで契約しなければ土地の購入価格が上がってしまう」、「建築費が割高になる」という強迫観念を感じながら家の取得を検討する必要は感じていないでしょう。
「どんな家を建てたらいいのか?」についての情報も当時の私より充分に得ることができるはずです。
今、あなたが私の書いたこの文章を読んでいること自体が、あなたが良い情報を得ていることになります。
住宅メーカーのパンフレットや工務店の説明は豪華な設備機器や内装であなたを催眠状態にして契約させようとするかもしれませんが、できるだけ具体的にそこでどんな暮らしが待っているのかを想像してみてください。
住まいは先ず、食べて寝る場所です。家族が団欒する場所です。歳を取れば子供達が離れていき、老夫婦が暮らす場所です。
夏の暑い日も、冬の寒い日も経済的に快適な暮らしができるでしょうか? それとも暑さや寒さで不機嫌になり、誰もが家に寄り付きたくなくなるような家になるでしょうか?
私自身もそうでしたから自信を持って言うことができますが(「変な自信を持つな!」といわれそうです)、建築設計技術者は目に形として見えるデザインには拘りますが、目に見えない温度や音響・電気などにはほとんど関心を持たない人が多くいます。
(音響・電気・設備・構造、全てを自分で解決できる必要はありませんが、正しく解決できるパ−トナーを持たない設計者は問題です。)
こうした人たちは「建物の形ができればあとは電気屋・設備屋が何とかしてくれるだろう」と他人事のように考えて使い慣れたディテールを使って建物の構想を組み上げます。
このような手順で設計され、あなたが手に入れることになる住まいでの暮らし方、建物の耐久性、毎年の修繕費や冷暖房に必要になる費用は、あなたが想像していたものとはまったく違ったものになる可能性があります。
建物は芝居の大道具ではありませんから、形だけで性能が決まるのではありません。あなたと家族に合った暮らしができる住み心地を考えるのはプロの設計者ではなく、あなた自身です。
あなた自身の暮らしを念頭に置いて、建物の耐久性、毎年の修繕費や冷暖房に必要になる費用について納得いくまで設計者と話をして、あなただけの家を造ってください。
ここで、Mさんの話をしておきましょう。
Mさんは2005年2月に関東を襲った震度6の地震のあと古い家の建替えを決意しました。
初めは昔の家と同じ木造の家を計画し、大工をしている従兄弟に工事を頼もうと考えていたそうです。
ところが、建設会社に勤務していた従兄弟から「会社の仕事が忙しくて、頼まれても請けられない」といわれたことから「従兄弟に頼まなくていいなら木造よりも鉄骨造の家を造ろう」と考えを変えて設計を進め建築確認も受けていました。着工する頃になって鉄骨が錆で傷むことや断熱性能が不足している可も知れないことが気になって私にご相談がありました。
「これまでの家は親父が建てて、息子の自分が立て替えることになった。今建替えるからには少なくとも子供の代まではもたせたい。」「今の技術でできる限り問題のない断熱方法を検討して欲しい。」とのご依頼を受けALC板貼りの外壁を断熱する方法を考え始めましたが、いくつかの解決できない問題を抱えていました。
ある日、「きちんと断熱するためにRCにするほうが良いのなら、もう一度初めから設計をやり直して最良の方法を取ることにしたい。」とご依頼を受けることになりました。
二度も建築確認申請を取るために 100万円余りの余分な費用が掛かったわけで、当時は奥様も呆れ顔をされていました。Mさんがどんな家を造るかを真剣に考えていらしたことを示していると思います。
建物が完成した今、Mさんにも奥様にも満足して頂いていると感じています。
私のこれまでの経験で、新築工事が終るとほとんどの工事で多くのクレ−ムが出て来ます。分譲住宅などでも引渡し後ディベロッパーと購入者の間には妙な緊張関係があります。
施主や購入者とゼネコンやディベロッパーとの間に緊張関係が生まれる理由には激しい温度や湿度の変動による木材の伸び縮みなどの不具合もありますが、施主や購入者が予想していた建物の性能と実際の建物の性能に大きな違いがあることが緊張関係が生まれる最大の理由だったように感じます。
これまでいくつかのRC外断熱工法の建物の施主や購入者とゼネコンやディベロッパーとの引渡し後のお付き合いを見てきましたが、いずれも内断熱の建物での経験とはまったく違う和気藹々としたものでした。
Mさんのお宅の場合は施工会社の工事担当者Sさんが頑張ってよいものを作ってくれたお陰もあると思いますが、「RC外断熱工法の建物の性能に皆さんが満足してくださっているのかな?」と、ちょっと嬉しい気持になります。
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