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快適な全館連続空調で失敗しないための秘訣
ほとんど断熱をすることがなかった日本の家では、伝統的に部屋を暖房する習慣はありません
でした、炬燵や火鉢のような採暖具は部屋や身体を温めるものではなく手や足といった体の部分
を暖めるものに過ぎませんでした。
家の中で薪などを燃やす囲炉裏にしても、煙突さえ持たない開放型燃焼機器でしたから、家
に暖かさを閉じ込めるものではなく、火から発生する輻射熱にあたって体の部分を暖めるもので
した。
木や紙、畳の芯になる稲藁など熱容量や熱伝導率の小さい素材で作られた伝統的な日本の家で
は意思やレンガなど熱容量と熱伝導率の大きい素材で作られた欧米の家とは暖房や冷房をすると
きの特性が違っています。
重さと熱容量の小さい木材などで作られた伝統的な日本の家は小さなエネルギーで暖めたり冷
やしたりすることができますが、レンガや石で作られた伝統的なヨーロッパの家はそうは行きま
せん。石やレンガで造られた家の暖房を止めて一旦冷やしたら、もう一度暖めるには大きなエネ
ルギーと長い時間を必要とします。
そこで、ヨーロッパでは建物の断熱性能を高めて常に家全体を暖める「全館連続空調」の考え
方が普及しましたが、日本の家では断熱性能を高める代わりに必要な場所、必要なとき以外に空
調を使わないでエネルギー消費を抑える「局所間歇空調」が一般的です。
必要な場所、必要なときに的確に空調が使えれば特に大きな問題はおきないはずですが、ヒー
トショックなど家の中の寒さが原因で命を落とす高齢者が多いことが高齢化時代を迎えた日本の
家の大きな問題になっています。
Q値1.5のRC外断熱住宅とQ値5.0の木造住宅を間歇空調したときに室温がどのように変化す
るかをグラフに示しました。連続空調のときは室温は常に暖房設定温度(20℃)に保たれていま
すが、間歇空調では空調を切ると室温が低下を初め、室温が下がった分だけ熱損失が少なくなり
ます。

グラフでは床面積120m2の建物の床面積の1/8だけを一日15時間、または9時間暖房す
るとして温度変化を計算しました。このような場合、普通は室内から外気に向かって流れる熱だ
けを考えますが、今回は建物の中の空調していない部屋に向かって流れる熱も考慮しています。
建物の蓄熱量が少なく、Q値が大きい木造の建物では空調を切ると暖房室の室温が急激に下が
り、外気との温度差が縮小すると温度変化が小さくなり、再度空調のスイッチを入れると急激に
室温を回復します。一方、熱容量が大きく、Q値が小さいRC外断熱工法の建物ではスイッチを
切ったあとの温度低下もスイッチを入れたあとの室温回復も緩やかに進みます。
ここでは外断熱工法建物の空調機出力を3.1KW、木造建物の空調機出力を8.4KWと想定していま
す。これは隣り合った2室を連続空調するときに必要な出力(日量)をおよそ9時間で賄える能
力です。
この部屋を連続空調する場合、RC外断熱で約2KW、木造で約3KWの出力の空調機があれば外気
温度5度のときに室温を20℃に維持できますが、RC外断熱の建物で9時間空調を切ったあと10
時間以上暖房を続けないと室温を20℃に回復することができませんし、15時間空調を切ると残り
9時間を暖房機の能力一杯に暖房しても15℃程度までしか室温を回復できません。

上のグラフでQ値 5.0の木造の建物のエネルギー負荷が連続空調と間歇空調でどれくらい違う
かを比べてみましょう。大きなQ値と小さな熱容量を持つ建物の連続空調では下のグラフで左側
の青と紫でく塗りつぶした部分が間歇空調より大きい負荷になる部分、間歇空調では中央上に青
く塗りつぶした分が連続空調より大きい負荷になる部分で、連続空調した場合よりも間歇空調し
た場合の方が消費エネルギーが減ることが判ります。
Q値 1.5のRC外断熱建物で同様に比較してみると連続空調したときに消費する紫に塗られた
部分の消費エネルギーと間歇空調で消費する桃色に塗られた部分の面積がほとんど変わらず、間
歇空調によるエネルギー節約効果が認められません。

Q値が小さく熱容量が大きい建物とQ値が大きく熱容量の小さい建物の小部分だけを間歇空調
すると考えてエネルギー負荷を比較すると大きな差を生じませんが、暖房する部屋の建物全体に
対する割合や時間を変動させてみると次の表のように両者のエネルギー負荷は変化し、長時間あ
るいは広い面積を空調するほどQ値が小さく熱容量の大きい建物のほうが省エネルギーになりま
す。
部分間歇空調と全館空調のエネルギー負荷
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1室
15時間 |
1室
24時間 |
2室
12時間 |
2室
24時間 |
4室
12時間 |
4室
24時間 |
全室
12時間 |
全室
24時間 |
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Q値=1.5 RC外 |
42.4KWH
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45.8KWH
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51.2KWH
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54.3KWH
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60.0KWH
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61.9KWH
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63.8KWH
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64.8KWH
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Q値=5.0 木造 |
55.0KWH
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74.3KWH
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76.1KWH
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116.1KWH
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122.2KWH
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175.8KWH
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161.2KWH
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216.0KWH
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(注)普通、このような比較表ではQ値だけを基準にして「Q値1.5-RC外の建物で1室15時間空
調の消費エネルギーを 36.6KWHとなるような試算をします。ここでは木造とRC造の建物内の界
壁が異なる熱貫流率を持つものとして比較しています。
どちらが得か?
日本では木造住宅だけでなく、コンクリート住宅でも建物の内側に断熱材を施工して建物の熱
容量を小さくする傾向があります。
建築や空調の専門家の中にも「日本人は間歇空調に慣れ親しんでいるので、熱容量を小さくし
て間歇空調しやすくしたほうがいい」と言っている人もいます。
このような話の中で比較検討される事例はQ値の大きい建物の極めて少ない面積を短時間だけ
空調するケースと、熱容量の大きい建物を全館連続空調するケースを比較したものです。
もう一度上の表を見てください。空調する部屋数が増え、時間が長くなるほどQ値の小さい建
物の消費エネルギーはQ値の大きい建物に比べて小さくなります。ただ、熱容量の小さい建物は
極めて短時間だけでも間歇空調することができますが、熱容量の大きい建物では連続空調すると
きに比べて相当に出力の大きい空調機を使わなければ熱量不足になって室温を所定の温度まで上
げることができなくなります。
下のグラフを見ても熱容量の小さい建物では簡潔空調や部分空調によってエネルギー消費が減
るのに、熱容量の大きい建物ではほとんど減らないことが判っていただけるでしょう。

現役世代で在宅時間が短い間は、「お金を掛けてQ値の小さい家を建ててもそれほど空調コス
トに差はでない」かもしれません。しかし、家に子供がいたり、年をとって一日家で暮らすよう
になったとしても、安心して空調を使えないような家を造っていいものでしょうか?
間歇空調を前提に造られた家では常に省エネのための節約を心掛けて生活し続けなければなり
ません。必要な空調をきちんと使うことは、省エネを心掛けることよりももっと難しいことかも
しれません。
高齢者になって寒い洗面脱衣室や浴室で入浴前後にヒートショックで倒れるようなリスクを敢
えて冒すことにどんな意味があるでしょうか?
家を造るとき欧米の人たちは間違いなく良く断熱されたQ値の小さい家を造るでしょう。日本
人の感覚では「多くの地域で断熱にお金をかけるのは冬が厳しいからで、日本のような温暖な土
地ではそこまで断熱しなくても快適に暮らせる。断熱にお金をかけるのは無駄だ。」と考えてい
るように感じます。
しかし、充分に断熱していない家に住んで日本人は本当に満足しているのでしょうか?
私には日本人が快適さを求めることに罪悪感を感じているような気がしてなりません。その結
果、暖房費を気にしながら必要な室内環境を維持するために過大な空調費を必要とすることに目
を瞑り、様々な意味で命を危険に晒しています。
木造住宅でも断熱性能を高めることは無駄なことではありません。熱容量の小さい木造住宅で
は、室内環境を損なわずに間歇空調をすることもできますので、連続空調や全館空調に拘ること
もありません。
床面積120m2で8つの区画に区分された従来の木造住宅と高断熱木造住宅を外気温度 5℃の日
に1、2、4、8区分ごとに所定の時間ずつ暖房するときの所用空調エネルギーをグラフにしま
した。
断熱性能を高めると建物の外に逃げていたエネルギーのかなりの部分がほかの部屋を温めるた
めに使われるので、空調する部屋数を増やしてもあるいは空調する時間を長くしても、必要とす
る空調エネルギーはそれほど増えません。
同じ部屋数を同じ時間空調するときに必要とされるエネルギーの差は建物から屋外に失われる
エネルギーの量の差です。
先ず、熱容量の小さい木造の建物で、Q値を5.0と1.5としたときのエネルギー消費を比較して
みましょう。
全館連続空調のとき、216KWHと 64.8KWH、ちょうどQ値の比率に比例しています。空調室数を
減らしたり、空調時間を短縮したりした場合、Q値 5.0の建物では消費エネルギーが大きく減り
ますが、Q値 1.5の建物では空調室数や空調時間を減らしてもエネルギーの削減割合が小さくな
っています。

次にQ値が3.0と1.5のRC外断熱の建物の消費エネルギーを同じように比較してみましょう。
木造の建物に比べて空調時間を短縮したときの消費エネルギーの減り方が小さいこと、空調室
を減らしたときの消費エネルギーの減り方が小さいことを読み取っていただけるでしょうか?
空調室数が少なくなるほど短い時間の空調時間を示すグラフの線がなくなっていますが、これ
は想定した空調機の能力では室温を維持するために最低必要な暖房時間を満たさないことを意味
しています。

多くの方が全館連続空調と言うと空調機を点け放しにする無駄な空調というイメージを持って
いらっしゃるかもしれません。しかし、熱容量の大きい建物は大きい蓄熱容量のために空調を切
ってもそれほど室温が下がるわけではありません。間歇空調であまりに室温が下がりすぎると次
に空調を入れたときに簡単に室温を回復することができません。自動制御された空調機は無駄に
運転するわけではありません。
全館連続空調は、冷房や暖房のピーク需要のときに一日中運転すれば充分な能力の空調機を使
う空調方式だと考えることができます。一方、局所間歇空調はスイッチを入れたときに集中的に
大きな出力を必要とするので、全館空調に比べて大きな能力を持つ空調機械を部屋ごとに取り付
ける必要があります。
どちらが空調機械や電気の基本料金に多くの費用を必要とするか深く考えるまでもありませ
ん。
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