|
空調と断熱
冷房や暖房をして室温または屋内の温度を一定に保っているとき、空調機から供給されている熱量と同じエネルギーが室内から屋外に逃げています。
室内から屋外に逃げる熱エネルギーの大きさは、建物の断熱性能によって決まります。
建物から屋外に逃げる熱の量を表す指標として、Q値と呼ばれる指標があります。これは、建物の床面積1m2
・温度差1℃ごとに屋内から屋外に逃げる熱量を表したもので、Q値にその時の温度差と床面積をかけると熱損失量を求めることができます。
もうお判りと思いますが、Q値の小さい家ほど少ないエネルギーで空調することができます。
Q値の小さい家は省エネな家
今、V〜X地域で建てられている次世代基準以外の木造住宅のQ値の計算値は5W/m2
・℃程度、対流・隙間風・間仕切壁内部の気流を考慮した実効値はその倍近いものになっていると考えられます。鉄筋コンクリートの戸建住宅でも5W/m2
・℃のQ値を持っているでしょう。
東京でQ値が5W/m2
・℃の100m2
の住宅を室内温度20℃に保とうとすると1年に約12〜13万円/年の暖房費がかかります。冷房費を含めると17〜18万円/年の空調費になります。Q値の実効値が10W/m2
・℃だったとすると暖房費だけで25万円/年・空調費全体で35万円/年にもなり、空調費の節約のためにヒートショックの危険を冒す原因になっています。
このホームページでお奨めしている断熱は、Q値の目標を東京でもT地域の1.6を下回る1前後にすることです。これだけで、一年中空調をつけ続けても年間の空調エネルギー費は3万5千円程度で済みます。
工事費は割高になりますが、毎年空調費が15〜30万円も安くなることを考えれば、工事費の増加はむしろ安いと考えることができます。
Q値の小さい家は空調設備も小さくて済みます
小さなQ値の家の空調設備は、小さな負荷に応じた小さな空調設備で充分に暖めたり冷やしたりすることができます。小さな空調設備を全館連続運転しても空調費が嵩むこともありませんし、間歇空調しても空調OFFにしている間の室温の低下が少ないので、特別大きな空調設備を必要としません。
Q値の大きな家では、暫く空調を切ると室温が下がってしまいます。間歇空調で温度の下がった部屋を暖めるには部屋からの熱損失を補うだけでなく、部屋の温度を上げるために余分な能力を持つ空調設備が必要になります。
Q値5W/m2
・℃とQ値1W/m2
・℃の建物の必要とする空調設備の出力は7〜10倍もの差があり、設備の費用も半分程度あるいはそれ以下に納まります。
断熱材は最も安い建材です
家を建てるとき、コンクリート・木材などの構造材、サッシ/ドアなど建具類、屋根・外壁など外装材、室内仕上の内装材、給排水・電気設備機器類など、多くの建材が使われます。
断熱材は完成すると見えなくなる材料で余り関心を待たれないかもしれませんが、これらの建材の中で最も安い建材です。しかもほとんどの場合、断熱材を厚く使っても施工費はほとんど変わりませんから、材料費の差額だけで充分な断熱をすることができます。
それなのになんと効果の少ない形だけの断熱ばかりが使われているのでしょう!
設計や施工をする人たちの姿勢にも問題がありますが、建物を使うときのことを考えずに建物の建設費だけを安く抑えようとする消費者の姿勢にも問題があります。
普通建てられているQ値が4程度の建物では、冬の暖房費・夏の冷房費は月に4万4千円程度になりますし、躯体の平均温度が50度にもなるRCの建物では冷房費の月額が6万円を超えることもあります。
断熱の悪い家でこれだけの空調費を払いたくなければ「節約」を心掛けることになりますが、これは「暑さ」、「寒さ」を我慢することにほかなりません。
一旦造った建物の断熱工事をやり直すには、建物の骨組みを裸にする必要がありますから、多額の費用を掛けて外壁や屋根の工事をもう1度やり直さなければなりません。「基礎や土間の断熱をやり直すことは事実上不可能に近い」と言っても言い過ぎではないでしょう。
建物を建てる前に、空調費を含めた建物のライフサイクルコストをよく考えてください。よい断熱の家を建てることがローン返済額+空調費(あるいは償却費+空調費)の少ない家を建てる重要なポイントです。
Q値で計算できない熱負荷もある
Q値で計算する熱負荷は建物の内外の気温差に基づいて、屋根・外壁・サッシ・土間など建物の外皮を熱伝導で通り抜ける熱エネルギーで、単位時間あたりの熱負荷を
熱負荷=Q値×床面積×(外気温度−室内空調温度)
の式で計算します。また、年間の空調負荷を
年間暖冷房負荷=Q値×床面積×(暖房デグリーデイズ+冷房デグリーデイズ)×24
の式で計算することができます。
しかし、屋根や外壁の接する外気と土間下の土の温度は同じではありません。暖房時には土の温度は外気温度よりも低く熱負荷が小さいのが普通ですし、冷房時には室内空調温度よりも土の温度が低くなっている筈です。
平成11年の「エネルギー使用の合理化に関する建築主の判断の基準」と題する告示で、「外気に通じる床裏からの熱損失を70%に減らして計算する」との記載がありますがこれだけで熱負荷の実体を反映できることはありません。
Q値による熱負荷計算では上記のほかに次の熱負荷を正確に反映することができません。
|
|
@ |
日射の吸収と夜間放射によって生ずる熱 |
暖房・冷房 |
|
A |
家電製品や人体から発生する熱 (16.7KJ/m2・h) |
暖房・冷房 |
|
B |
建物に蓄熱される熱 |
暖房・冷房 |
|
C |
換気・漏気に伴って空気が運ぶ顕熱 (換気回数によりQ値を調整) |
暖房・冷房 |
|
D |
換気・漏気に伴って水蒸気が運ぶ潜熱 |
冷房時のみ |
|
E |
厨房機器・人体から発生する水蒸気が持つ潜熱(4.2KJ/m2・h) |
冷房時のみ |
|
これらの熱は評定を受けた計算プログラムを使って計算することになっていますが、一部の計算方法は基準や考え方が示されていません。
Bの建物に蓄熱される熱による熱負荷は躯体温度や小屋裏の温度が外気温度に比べて著しく上昇する建物では熱負荷の大半を占めることがあります。
一般の建物では熱負荷計算をせずにQ値のみで次世代基準への適合をチェックすることが多いのですが、ここに掲げた熱負荷について充分な設計上の配慮をすることにより、熱負荷の小さい省エネルギーな建物を造ることができます。
断熱のよい建物では空調設備が過剰にならないように注意してください
断熱のよい建物に過剰な空調設備をつけると、暖房中は暑すぎる、冷房中は寒すぎるといった弊害が起きることがあります。特に床暖房を採用する場合は高温の湯を使うと温度コントロールができなくなる恐れがあります。一日の必要な熱量を24時間かけてゆっくり供給できる能力の熱源があれば充分ですから、過剰設備とならないように注意してください。
従来の家がスポーツカーのエンジンを必要としているとすれば、断熱のよい家は軽自動車のエンジンで充分に空調できる性能を持っています。
高断熱住宅は冷房に向かないか?
「高断熱住宅? 確かに暖房は良く効くけどね、高断熱の我が家は隣の古い実家よりも1ヶ月も早く冷房を入れなくてはならないほど暑いんだ」まるで、高断熱住宅は夏向きではないような話をする人がいます。
もちろんこの話、嘘ではありません。その理由がわかれば安心できる現象です。
家の中では様々なところから熱が出ています。照明器具、冷蔵庫、テレビなどの電気製品、調理中の厨房、お湯の入った浴槽、家の中にいる人からも一人当たり60Wの電球と同じくらいの熱が発生しています。
内部発生熱と呼ばれるこれらの熱は年間平均で1m2あたり16.7KJ/h(4.63W)ほどですから、床面積120m2の住宅では常に550Wの熱が発生していることになります。
この熱は従来の住宅の室内気温を約1℃上昇させますが、Q値の小さい住宅では室内気温を4℃近く上昇させますから、室内気温に約3℃の差が出ます。調理などで大量の熱を発生させるときはもっと大きな温度差になるでしょうから、「1ヶ月も早く冷房を・・・」という話は誇張ではありません。
この傾向は、熱容量の大きいRC造の建物よりも熱容量の小さい木造高断熱建物で顕著になる傾向があります。
「室温が3℃以上も高くなるのなら、真夏にはもっと大変なことになるのでは?」と心配されるかもしれませんが、断熱の良い建物は外の厚さの影響を受けにくいので外気温度が高くなると空調に必要なエネルギーは断熱の悪い家より少なくなります。
それぞれの外気温度に対して空調に必要なエネルギーがどう変わるかをグラフに示しました。年間を通じて見れば高断熱な建物が冷房エネルギーを多く使うのは僅かな期間で、冷房を早く切り上げることでそれ以上の省エネになることもわかるでしょう。
断熱性能の悪い家ほど輻射熱の影響を強く受けるので、夏場は実際の外気温度から計算したよりも多くのエネルギーを必要とします。

上の図で暖房エネルギーは+、冷房エネルギーは−で表示されています。
外気温度が23〜27℃あたりの間だけ高断熱建物の冷房エネルギーが大きくなることがわかります。
(05/04/07)
|
|