断熱と室内環境
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断熱と室内環境の序
 最近設計させていただいたM邸とほぼ同じ時期に同じ施工会社が施工したT邸の2006年1月 の室温をグラフにしたものがあります。
 まずふたつのグラフをご覧ください。






 グラフを見比べて判ることはM邸では室温がほぼ22℃前後で安定しているのに対して、T 邸2階では日最高室温が18〜21℃、日最低気温が13〜16℃で毎日5℃前後の室温変動 があることです。
 さらにM邸では1階と2階の温度差が3〜5℃の範囲にあるのに対して、T邸では常に5〜 10℃の温度差が示されています。
 M邸は1階だけ、T邸は2階だけで暖房を使用していて、暖められた空気の持つ熱は上の階 に伝わりやすいことがM邸の温度差が小さい原因の一部になっています。
 戸建住宅のM邸では1階と2階を繋ぐ吹き抜けがあり家全体の空気が循環する構造になって いること、2世帯住宅のT邸では1階と2階が床とドアで仕切られ、空気が循環しないことも グラフに表れた室内環境特性に影響を与えています。


 しかし、それ以上に建物の性能に影響を与えるいくつかの要因があります。

 それは、建物を一定の温度に保ったときに建物から失われる熱量を示す断熱性能と建物の温 度を1℃上昇させるときに必要な熱量で表わされる熱容量です。

 ふたつの建物はいずれもコンクリートの外断熱工法で熱容量はほとんど変わりません。

 この「断熱と室内環境」で皆様に知っていただきたいこと、理解していただきたいことは断 熱性能と熱容量によって「室内環境」と「空調のエネルギーコスト」がどう変化するかという ことです。

 ふたつのグラフを見てお判りになった方がいらっしゃるかもしれませんが、M邸は暖房をほ とんど切らない生活をしています。T邸では夜中と日中は暖房を切っていることが2階室温の 激しい変動となってグラフに表れています。

 「夜中も日中も暖房していれば、温度変化が少ないのは当たり前でしょ。T邸だって同じよ うに暖房すればもっとM邸に近いグラフになったんじゃないの?」と思われた方、いらっしゃ いますか? 「そうです。正解です。」 ただ、このふたつの家を同じように一日中暖房し続 けたとき、少しだけ違いが出てきます。


 ふたつの建物はともにRC外断熱工法で建てられていますが、建物の断熱性能に相当な違い があります。M邸は 100mmのビーズ法発泡ポリスチレン(EPS)と樹脂サッシを使っていて換気 による熱損失を含めたQ値は1.5前後になりますが、T邸は35mmのロックセルボードと樹脂 アルミ複合サッシを使っていて4.0前後のQ値になるでしょう。

 M邸では1月の平均気温とほぼ等しい平均外気温度5℃の日に20℃で24時間連続空調す るとすれば1日あたりの熱損失は、

  1.5×(20-5)×180×24=97,200W=97.2KW 


となり、効率(COP)4.0のエアコンを使って空調するときの電力量は
  97.2/4×22≒534(円)
つまり1ヶ月暖房し続けても電気代は1万6千円ほどで済む計算ですが、T邸では1階と2階 の平均室温を14℃として間歇暖房したとしても1日あたりの熱損失は

  4.0×(14-5)×180×24=155,520W=155.52KW 

となり、2階だけを間歇空調するにも毎日855円、下の階も含めて空調して間歇空調の平均気 温が18℃になったとすると毎日の電力費は1,235円、20℃で連続空調すれば1,425円とM邸に比 べて2〜3倍の電力費がかかることになります。

 T邸では2階だけを連続空調するとしてもおそらく一日 1,200円程度の空調コストになりま すから、月当たり36,000円の空調費を覚悟しなければ連続空調できないのです。

 以下、木造建築物を含めて断熱仕様と空調方式が室温と空調コストにどのような影響を与え るかについてお話を進めていきます。


断熱・空調と温度変化
 空調中,あるいは空調を切ったときの温度変化について基本的に知っておいて戴きたいこと を簡単に纏めておきます。
 各種の断熱仕様を持つ建物の室温変化についての解説を理解するうえで重要ですから是非目 を通しておいてください。

 外気温度が寒いとき暖房を入れていなければ室温は徐々に下がっていきます。
 室温の下がり方は室温と外気温度の差と熱損失率(Q値)に比例し建物の熱容量に反比例 します。

 下の説明図ではやや簡略に表しましたが空調を切ったときの単位時間あたりの温度の下がり 方は次の式で表されます。

温度低下=Q値×(室温−外気温度)×床面積/建物の熱容量・・(1)

 つまり、Q値が小さく熱容量の大きい建物ほど温度が下がりにくい(冷房時には上がりにく い)ことになります。

 次に一旦冷えた建物を空調によって暖めるときの単位時間あたりの温度上昇は次の式で表す ことが出来ます。

温度上昇=(空調機出力−Q値×(室温−外気温度)×床面積)/建物の熱容量・・(2)

 空調機の出力が大きいほど温度上昇が大きいこと、空調機の出力がQ値×(室温−外気温 度)×床面積を下回ると室温が上昇しないことを示しています。

 さらに、室内が空調設定温度に達して一定温度を維持するときには次の関係が成り立ってい ます。

空調機出力=Q値×(室温−外気温度)×床面積・・(3)




 常時連続空調するときの空調機出力は(3)の式で簡単に求めることが出来ますが、間歇空 調するときの空調機出力はそれより大きなものになります。空調を切る時間が長いほど大き な空調設備が必要になります。


Q値
 Q値は壁、天井、床、サッシなど建物各部分の熱貫流率(K値)と面積を掛け合わせた数値 の合計を建物の床面積で割った数値で内外温度差1℃・床面積1mあたり建物と屋外の間を 移動する熱エネルギー量を表します。換気などによる熱の移動もQ値に含めて計算します。

 上の(1)(2)(3)の式からも判ると思いますが、Q値が小さいほど熱損失が少なく、 室内の温度変化も小さくなります。

 日本の建物は風通しに重きをおく伝統があり、Q値が大きいことを特色にして来ました。 「冬は如何なる処にも住まる」「断熱よりも風通しが重要だ」という考え方でした。
 今でも日本の建物は欧米に比べて極めてQ値が大きい傾向があります。


熱容量
 熱容量は建物の壁や床、室内に置かれている家具などを含めた建物の断熱区画内のものの温 度を1℃変化させるのに要する熱エネルギーの量です。現在熱エネルギーの国際単位はMJ (メガジュール)ですが、Q値などにW(ワット)が使われているので私もワットを使ってい ます。少し前まではKCal(キロカロリー)が使われていました。


断熱と室内環境
 Q値と熱容量は室内環境や空調コスト、更に空調する室内の快適性に大きく関係します。新 しく建物を建てるとき、あるいは既存の建物を手入れするときに続く内容を生かしていただけ ることを念願しております。



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