断熱工法の経済性比較
断熱工法の選定にあたり、断熱工事費・空調設備工事費および建物の試用期間に渡る空調ラン
ニングコストを併せたトータルコストを比較するのが合理的な検討方法です。
これまで、日本の住宅のコストは「建築本体工事」の費用だけで考えられていました。マンシ
ョンでさえエアコンを住宅設備機器として標準設備に含むところは稀ですし、エネルギーコストは
住まなければ判りません。
従来の建物の貧弱な断熱性能を2倍、3倍と高めていけば断熱工事費は確かに増加します。
「寒くても暑くても我慢できる。これ以上家にお金を掛けたくない。」と思う人もいるかもしれ
ません。
しかし、冬を暖かく、夏を涼しく暮らす費用は断熱のよい建物のほうが遥かに少なくて済みま
す。さらに、建物自体の耐久性能も増加します。
断熱性能を高めるために嵩む工事費を、省エネ効果や耐久性の向上が上回れば断熱性能を高め
ることは有効な投資と考えることができます。
このページでは建設後住宅ローンの返済が続く当初35年間について、常に空調によって室内を
快適な温度に保つとして、ローン返済額と空調用エネルギー費の合計が最小になる断熱厚さを最
適断熱厚さと考えて計算を行いました。つまり「コスト」と銘打ってはいますが、実際には「ロ
ーン返済期間中の資金負担額」を比較しています。
現在一般に建てられている建築物がローン返済終了と前後して建替時期を迎えるのに対して、
耐久性に優れた高断熱な建築物はローン返済後も50〜70年も使い続けることができます。本
来の「コスト」比較はそれぞれの建物の耐用期間に対応した「コスト」を比較しなければなりま
せんが、これについては後日改めて別項を起こします。
同じ仕様で断熱する費用は建設地が変わってもそれほど違いしません。しかし北欧や東北・北
海道のように我慢できないほど厳しい寒さが続く気候・風土では、断熱性を高めるほど燃料費の
節約額も多くなりますが、寒さが比較的緩く短い地方では同じ断熱性能にしても燃料費の節減額
は少なくなります。
経済的な断熱仕様は建設地の自然環境と深く関わっているからです。
地域の空調負荷
|
左の表は全国の主な都市の冷暖房負荷の地
域特性を示す暖房度日(Heating Degree-
days HDD)と冷房度日(HeatingDegree-
days CDD)を示しています。
HDDは一日の平均気温が基準温度を下回っ
た量を年間累計したもの、CDDは一日の平均
気温が基準温度を上回った量を 年間累計し
たものです。
地域・家庭によって冷暖房温度は異なり、
基準温度を何度にするか議論の余地のあると
ころですが、HDDは18℃、CDDも18℃としまし
た。ただし、高断熱の建物は輻射熱取得が少
ないことから、25℃としました。
室内発熱が屋内気温を2〜5℃上昇させると
考えれば暖房時の室内温度は20〜23℃、冷房
時はさらに輻射熱の影響で室温上昇すると考
えます。
|
|
|
|
HD
D
|
CDD
|
HDD+CD
D
|
|
基準温
度
|
18℃
|
低断
熱
18℃
|
高断
熱
25℃
|
低断
熱
|
高断
熱
|
|
札 幌
|
3,542
|
203
|
0
|
3,745
|
3,542
|
|
仙 台
|
2,303
|
387
|
0
|
2,690
|
2,303
|
|
東 京
|
1,400
|
951
|
78
|
2,351
|
1,478
|
|
名古屋
|
1,491
|
1,062
|
164
|
2,553
|
1,655
|
|
大 阪
|
1,282
|
1,243
|
241
|
2,525
|
1,523
|
|
福 岡
|
1,166
|
1,205
|
231
|
2,371
|
1,397
|
|
那 覇
|
0
|
2,334
|
558
|
2,334
|
558
|
※ 低断熱はK値1.0W/℃・K以上のもの
高断熱はK値0.6W/℃・K以下のもの
0.6〜1.0の間は直線的に補正する。
|
工事費+エネルギーコストの最小化
建設時点で発生する工事費と建物を使用する段階で発生するエネルギーコストを同列に置くた
め、工事費を金利2.5%・35年返済ののローン返済額に置き換え、毎年工事費の4.3%をコストと
して負担するものとします。
エネルギーコストは各地の気候条件から計算される暖房度・日(HDD)、冷房度・日(HD
D)から計算される使用エネルギー費用としました。
以下の表で用いた断熱工事価格は試算用に想定したものです。
|
充填断熱工法−MW (木造/東京)
|
|
断熱厚さ
|
K値
|
価格/u
|
HDD
|
CDD
|
HDD+CDD
|
熱還流量/年
|
電力料金/年
|
工事費ローン
|
年間コスト
|
|
25mm
|
2.29
|
2,390
|
1400
|
951
|
2351
|
129
|
948
|
129
|
1077
|
|
50mm
|
1.15
|
2,910
|
1400
|
951
|
2351
|
65
|
476
|
157
|
633
|
|
75mm
|
0.77
|
3,430
|
1400
|
449
|
1849
|
34
|
251
|
185
|
436
|
|
100mm
|
0.57
|
4,950
|
1400
|
78
|
1478
|
20
|
148
|
213
|
362
|
|
125mm
|
0.46
|
5,470
|
1400
|
78
|
1478
|
16
|
120
|
241
|
361
|
|
150mm
|
0.38
|
5,990
|
1400
|
78
|
1478
|
13
|
99
|
269
|
368
|
|
充填断熱工法−MW (鉄骨造/東京)
|
|
25mm
|
2.07
|
2,390
|
1400
|
951
|
2351
|
117
|
857
|
103
|
953
|
|
50mm
|
1.04
|
2,910
|
1400
|
951
|
2351
|
59
|
430
|
125
|
555
|
|
75mm
|
0.69
|
3,430
|
1400
|
253
|
1653
|
27
|
198
|
147
|
345
|
|
100mm
|
0.51
|
4,950
|
1400
|
78
|
1478
|
18
|
133
|
170
|
303
|
|
125mm
|
0.41
|
5,470
|
1400
|
78
|
1478
|
15
|
107
|
192
|
299
|
|
150mm
|
0.35
|
5,990
|
1400
|
78
|
1478
|
12
|
91
|
215
|
306
|
|
外張断熱工法−押出FP 東京
|
|
25mm
|
1.44
|
1,030
|
1400
|
951
|
2351
|
81
|
595
|
56
|
651
|
|
50mm
|
0.72
|
1,130
|
1400
|
340
|
1740
|
30
|
220
|
61
|
282
|
札幌のHDD・CDDを用いて同様な計算を行い、結果を図に示したものが下の図です。
外張り断熱は熱橋となる木部がなく工事も比較的簡単なののでトータルコストが安くなります
が、省エネ性能は充分ではありません。

|
内断熱工法-現場発泡・湿式タイル 東京
|
|
断熱厚さ
|
K値
|
価格/u
|
HDD
|
CDD
|
hDD+CDD
|
熱還流量/年
|
電力料金/年
|
工事費ローン
|
年間コスト
|
|
15mm
|
1.80
|
8,820
|
1400
|
951
|
2351
|
102KWH
|
745円
|
379円
|
1,124円
|
|
20mm
|
1.53
|
9,090
|
1400
|
951
|
2351
|
86
|
633
|
388
|
1,021
|
|
25mm
|
1.36
|
9,240
|
1400
|
951
|
2351
|
77
|
563
|
397
|
960
|
|
50mm
|
0.95
|
10,290
|
1400
|
951
|
2351
|
54
|
393
|
442
|
836
|
|
乾式外断熱工法-MW・乾式タイル 東京
|
|
75mm
|
0.63
|
33,000
|
1400
|
143
|
1543
|
23KWH
|
171円
|
1,419円
|
1,633円
|
|
100mm
|
0.49
|
34,000
|
1400
|
78
|
1478
|
17
|
127
|
1,462
|
1,589
|
|
125mm
|
0.39
|
35,000
|
1400
|
78
|
1478
|
14
|
101
|
1,504
|
1,605
|
|
150mm
|
0.33
|
36,000
|
1400
|
78
|
1478
|
12
|
86
|
1,548
|
1,634
|
|
湿式外断熱工法-EPS・モルタル 東京
|
|
25mm
|
1.22
|
13,000
|
1400
|
951
|
2351
|
69KWH
|
505円
|
559円
|
1,064円
|
|
50mm
|
0.66
|
14,000
|
1400
|
209
|
1603
|
25
|
187
|
602
|
789
|
|
75mm
|
0.45
|
15,000
|
1400
|
78
|
1478
|
16
|
117
|
645
|
762
|
|
100mm
|
0.34
|
16,000
|
1400
|
78
|
1478
|
12
|
88
|
688
|
776
|
|
125mm
|
0.28
|
17,000
|
1400
|
78
|
1478
|
10
|
73
|
731
|
804
|
|
150mm
|
0.23
|
18,000
|
1400
|
78
|
1478
|
8
|
60
|
774
|
834
|

あまり現実的ではない50mmの内断熱を除けば、東京でトータルコストの安いものは湿式外断熱
の75mm札幌では湿式外断熱の100mmという結果になりました。乾式外断熱は一般的なタイル外装を
想定したため高コストになっています。サイディング仕上げなどローコスト化を図る方策もあり
ますが、外装は建てる方の嗜好によるので、・・・
工事費を35年ローンで支払うこととして、その返済額が毎年の断熱設備コストになるとしまし
た。外断熱の建物は存続期間全体でコストを負担すると考えればもう1ランク厚さを増す可能性
があります。また。将来エネルギーコストが上昇するリスクに備えて(あるいは環境保全に協力
して)断熱性能を高めに設定することも良い考えです。
(エネルギーコストが上昇するとトータルコストの実線は上にシフトします。そのとき最適ポ
イントの右側は勾配が緩やかですからコスト増加が少なく抑えられます)
上に示した図から、断熱性能をあげるほど使用する空調エネルギーが減ることがお判りいただ
けるでしょう。工事費を35年のローン(金利2.5%/年)で支払う場合、東京では75〜100mm、札
幌では125mm〜150mmで支払うローン返済額+エネルギー費の総額が最小になります。さらに断熱
性能を上げた場合にも総額は余り上昇しません。
今のところ35年以上掛けて支払う住宅ローンはありませんが、充分に外断熱されたた獲物はロ
ーン返済終了後もエネルギーを節約して空調を続けられますから、より長期の住宅ローンがある
と仮定してトータルコストを計算しても良いのかもしれません。
(そのときにはさらに1サイズ以上厚めの断熱材が少ないトータルコストを実現する結果にな
る筈です)
|
※
|
建物の断熱性能が不充分な場合、実際は暑さと寒さを我慢してエネルギー費の節約を図っ
ていますから、「上のグラフほどエネルギーを使う」訳ではありません。
そのためか、都道府県別の最低気温とヒ−トショックによる死亡率の間には次の図のような
相関関係があります。
|
|