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木造建築物の断熱
「木造建築物」と言っても様々な建築工法があります。
伝統的な日本建築は木の軸組構造に土壁を塗り、風通しの良い大きな開口部を持つものでした。
左官による塗り壁が使われることが少なくなった最近の伝統工法の家は軸組工法と枠組工法の違いはあっても、その他の部分では大きな違いがなくなっているように思います。
ここ10年ほど、日本では木造住宅の断熱方法として充填断熱工法と外張断熱工法の関係者による「誹謗中傷合戦」のような泥仕合が繰り広げられています。
従来から私はただ断熱工法が外張か充填かだけで優劣を論じるべきではないと考えてきました。
「充填断熱は結露が起きやすい」という外張断熱推進者の指摘は、きちんとした気密防湿層を施工しない場合のトラブルを槍玉に挙げているだけです。
「建物を外側から断熱材ですっぽり覆う外張断熱は熱橋が少なく結露が起きにくい」という外張り断熱にしても、軸組の空洞に断熱材をフル充填した場合に比べると熱貫流率が高いものが多く、「高性能な外張り断熱」という謳い文句通りの性能を発揮するものはほとんどありません。
T地域の次世代省エネ基準を満足する外張断熱工法の家がほとんどないことを見ても、外張断熱工法の断熱性能が特別優れたものでないことがわかります。
しかし、「だから充填断熱工法でなければいけない」と言うつもりはありません。
個別の断熱仕様の比較には、断熱性能やその他の室内環境要因をきちんと評価することが欠かせません。
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外張断熱工法と充填断熱工法の比較
従来、外張り断熱工法と充填断熱工法を比較するときの私の基準は建物のQ値を比較することでした。つまり建物の熱損失を定量的に比較することが重要と考えていました。
一方で、外張断熱工法関係者は「熱橋の有無」、「貫通金物が熱橋となること」など定性的な比較に重きを置いているようです。
断熱先進国と考えられている北欧や北米から伝えられた木造住宅の断熱工法は、気密・防湿層を持つ充填断熱工法の枠組壁工法です。
枠組壁工法では筋交を使う代わりに構造用合板などの面材(板)に地震力を負担させるため、通常枠組壁の空洞と同じ厚さの断熱材を充填していますが、筋交を用いることが多かった日本在来の軸組工法ではほぼ空洞の半分の厚みの50mmの袋入り断熱材を使うことになり、国土交通省や住宅金融公庫の基準も50mmの袋入り断熱材が使えるように作られています。
袋入りグラスウール断熱材は「気密・防湿層−断熱材−防風・透湿層」を一体化し、合わせて裸では使いにくいグラスウールの普及を図る目的で開発された商品ですが、次のような欠陥を解決できていません。
1. 気密防湿層の連続が確保できない。
2. 切り口の処理がきちんとされないことが多い。
3. 防風・透湿層に非透湿性素材が使われることがある。
4. 外壁の空洞の室内側に密着させることが難しい。
5. 襷掛けの筋交があるとほとんど対応できない。
外張断熱工法関係者が批判する充填断熱工法の問題点は充填断熱工法の問題点と言うよりも、袋入り断熱材を使う場合の問題点と考えたほうが良いものもあります。
従来、充填断熱工法といえば鉱物繊維系断熱材を50〜 100mm充填したもの、外張断熱工法といえば発泡樹脂系断熱材を30mm程度貼ったものと相場は決まっていましたが、セルロースファイバーや羊毛繊維を充填した充填断熱工法や、10cm以上の繊維系断熱材を使った外張り断熱工法など、従来の常識を破るような断熱工法も見受けられるようになって来ました。
今、施工することが可能と考えられる木造建築物の断熱工法を充填断熱工法・外張断熱工法に分け、さらに使用する断熱材によって分類してみます。枠を薄黄色に塗った部分が私たちが従来考えていた断熱工法です。
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充填・外張の別 |
断熱材の種類
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断熱材の厚さ |
備 考
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充填断熱工法 |
鉱物繊維系断熱材 |
50mm |
袋入り断熱材 |
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フル充填 |
欧米の基本型 |
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セルロースファイバー |
フル充填 |
吹き込み |
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発泡樹脂系断熱材 |
80mm |
アイシネン |
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フル充填 |
工場生産パネル |
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外張断熱工法 |
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30mm程度 |
従来の外張工法 |
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>100mm |
EIFS系 |
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>100mm |
ブラケット使用 |
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鉱物繊維系断熱材 |
>100mm |
ブラケット使用 |
同じ厚さと種類の断熱材を使う場合、充填断熱工法では外張断熱工法よりおよそ20%ほど熱損失が大きくなります。
つまり、外張断熱工法と充填断熱工法との断熱性能を比較する場合、外張り断熱工法の断熱性能は厚さを20%ほど増やして充填断熱工法と比較すればおよその性能比較ができます。
それでは、「充填断熱工法は結露が起きやすい」と言われることをどう考えればいいでしょう?
「ライバルの工法への批判は客観的なデータに基づかないものが多いので気にすることはない」と言ってもいいとは思いますが、それでは少し乱暴すぎます。
鉱物繊維系断熱材を使う充填断熱工法では、気密・防湿シートを確実に施工して室内の暖かく湿った空気が壁内部に浸透していくことを防止する必要があります。
50mmの袋入り断熱材では壁の中に大きな空洞があり、ここで大きな対流が起きて水蒸気は結露する前に屋外まで運ばれていたと考えられていますが、断熱性能と気密性能が高まると壁の中で結露が発生するリスクが高まります。
欧米の気密防湿シートの貼り方は幅2.7m、暑さ 0.2mmのポリエチレンシートを使い、継ぎ目は間柱やスタッドの上で30cm以上の重ねを取る(北欧)か、シート同士をコーキングする(北米)というものです。
袋入り断熱材では気密防湿層が重ね合わせられることがなく、袋入り断熱材の変形の耳付き断熱材でも充分な重ね代がありません。ロール状の袋入り断熱材を使う充填断熱工法は早急に廃止してマット状断熱材のフル充填に変更しなければなりません。
さらに、軸組材を貫通する固定金物を使う場合、金物の室内側温度が下がり結露の原因になることがあります。貫通金物がある部分では、その外張断熱に準じた断熱補強を考慮する必要があります。 |
断熱性能と調湿性能
断熱工事のことですから断熱性能の評価を中心に考えるのは当然のことですが、断熱工事が室内の湿度に大きな影響を与えるようになって来ました。
鉱物繊維系断熱材と気密防湿シートを使った充填断熱工法の建物は外壁周りの木材を室内空気に触れさせない構造にしました。
木材を初め吸放湿機能を持つ素材は湿度が高くなると吸湿し、低くなると放湿して湿度変化を平準化させます。気密防湿シートは木材と室内空気との縁を切り調湿性能を妨げます。
その結果、最もオーソドックスな断熱工法と考えられている気密防湿層を持つ鉱物繊維系断熱材を使う充填断熱工法は外気の持つ水蒸気量を室内にそのまま反映させるため、冬の室内は過乾燥に夏の室内は高い湿度になりやすい傾向があります。
それでは外張断熱工法の建物なら木材の吸放湿性能を生かすことができるかと言うと内装の仕方によって大きな違いが出てきます。
内装にビニールクロスを多用した家ではポリエチレンシートの気密・防湿層を持つ家と同じように木材の吸放湿(調湿)性能が機能することを妨げることになります。
内装材に調湿能力のある建材を使用した建物では構造材の調湿性能を生かすことができなくても一定の調湿機能を果たすことができるという見方も成り立ちますが、調湿能力は熱容量と同じように吸放湿材の重量と吸放湿特性のほか、材料の表面積の大小の影響を受けます。
「僅かな部分で調湿建材を使用してもポリエチレンシートやビニールクロスを使うことによって失われた構造用木材の調湿性能を取り戻すことは殆ど不可能」と言っていいでしょう。
建物の調湿性能を定量的に把握する試みはまだ殆ど行なわれていません。
室内で除湿・加湿を行なわないときに建物が調湿能力を持たないとすれば外気の水蒸気量と室内の水蒸気量は同じ水蒸気量(g/Kg)、または同じ水蒸気圧(pa)になろうとします。
実際に建物内で計測された水蒸気量や水蒸気圧が外気とどう違うかを比較することによって断熱工法や内装と建物の調湿特性がどう関係するかを知ることができます。
これからの断熱工法の選択においては、断熱性能だけを問題にするだけでなく、より少ないコストでより快適な室内環境を実現できる総合的システムを志向すべきではないでしょうか? |
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