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「良い家」とは
 「良い家」なかなかファジーな表現です。「何が良い家か」と聞かれたとき、答は人によって違うのかもしれません。

1.充分な断熱性能
 私がここで「良い家」というとき、大きな空調費を使わなくてもヒートショックを引き起こすような大きな温度差を生じさせない家であることを第一の前提にしています。
 適切に断熱されている家が良い家だと言ってもいいかもしれません。
 「適切に断熱されている家」もまた開設が必要かもしれません。建物の耐久年数と「適切な断熱」の内容は関連しています。
 ある建物の断熱工事費、建物を解体するまでの空調設備の更新費用、さらに毎年の空調費用を累積した額が最小になるような組み合わせが「適切な断熱」になります。
 ここで断熱工事費、設備費用、空調運転費用(エネルギー費)を計算することは簡単ですが、将来の設備更新費用や空調運転費用(エネルギー費)を予測するのは簡単なことではありません。

 OPECはイラク戦争やカトリーナ(ハリケーン)の被害の後高騰した原油価格を維持するため減産により価格維持を図っています。原油の枯渇が近づくほどエネルギー価格は上昇し、それが新エネルギー開発の動機になるので今後のエネルギー価格は上昇基調が続くものと思われます。


2.絶対に結露させない断熱工法
 良く「断熱性能を高めた家は結露を起こしやすい」と言われます。
 結露を起こす原因は建物ごとに違うと言ってもいいほど多様です。木造住宅では建物を構成する素材の組み合わせによって透湿抵抗が大きく断熱性能が小さい素材が低温側にあるときに結露が起きやすいこと、鉄筋コンクリートの建物では熱橋付近に結露が生じやすいことが知られていますし、建物内で温度差の大きい家では温度の低い部分に激しい結露が起きることがあります。
 断熱性能を高めたのに、結露で木材腐朽菌が繁殖し数年で家が腐ったナミダタケ事件の例もありました。良い家を造るつもりで数年で腐ってしまう家を造ったのでは笑い話にもなりません。結露のない家を造らなければ必要な耐久性を確保することができません。

 最近、「在来型木造住宅が理想的だ」と考えている方と論議しました。
 彼は、
A.  木材は蒸れないように呼吸できる状態で使うべきもので、それができなければすぐに傷んでしまう。(もっと具体的に言えば「傷む」より「腐る」と言いたいのでしょう。)
B.  防湿シートなどを貼った家に住んでも木の香りも感じられないではないか?
C.  常に快適な温度を保つ室内環境を保つより、冬は冬らしく、夏は夏らしく季節を楽しむ ほうが人間的だ。
 
と指摘して、昔ながらの伝統的な家造りが日本に最も適していると言い続けました。

 高気密・高断熱の木造住宅工法の中に木材を密閉し腐らせるものもあるかもしれませんが、そのようにしなければ断熱性能を確保することができないわけではありません。
 「木の香りがしない木造住宅」という指摘は一部の高気密高断熱住宅の問題点を的確に掴んでいることは間違いありませんが、「木の香りがする家なら断熱やエネルギー消費を無視してもいい」と考えてはなりません。

 製造物責任法(PL法)が適用されない建築や住宅の業界は、ほかの業界に比べて厳密な品質保証が要求されていないのですが、その後成立した消費者契約法などが適用されるため、契約時に回答した内容と事実に相違があった場合、消費者に誤認させて契約を締結させたと見做される可能性が大きくなっています。

 従来の低気密・低断熱住宅を販売するときには

A.  快適に空調しようと思えば年間30万円ほどの空調費がかかる。
B.  局所暖房をした場合、非空調室や押入などに激しい結露が起きることがある。
C.  空調する場合、非空調室の温度を空調室より5℃以上低くならないようにしなければ結露が起きても保証できない。
D.  この建物は冬は寒く、夏は暑く暮らすのに向いている。

などの説明をしなければ、契約上の責任を問われる仕様のものだと言ってしまうと言い過ぎなのでしょうか?

 誤解を避けるために言わせて戴けば、「在来木造工法をベースにした高気密・高断熱工法は不可能だ」と言うつもりはありません。
 今後の生き残りを目指すなら、在来工法の長所を生かしながら断熱性能を高め、気密性能を高めるなりほかの手段を使うなりして結露や腐朽のリスクを回避する技術を確立しなければならないということです。


 前振りを終って、早速本題に入りましょう。

3.バリアとしての家
 家は人間が住むところです。日本では長い期間家が外気温度の変化に対するバリアであるべきだとは考えられていませんでした。方丈記の「家の造りは夏を旨とすべし、冬は如何なるところにも住まる」という文章のように、蒸し暑い夏を風通しで凌ぐことが家造りの指針になってきました。

 夏は乾燥していて、冬の寒さの厳しい石造りの建物が主流を占めたヨーロッパでは、「夏を旨とする家造り」をすれば多くの国で莫大な凍死者を出し、多分中欧から北欧にかけては人の住めない場所になった筈です。

 日本人が蝦夷地に本格的に進出したのは明治以降ですが、バイキングの伝統を持つ北欧では冬の気温が氷点下20度以下になるバルト海を根拠に15世紀から東インド会社を設立して東洋貿易を始めていました。

 今、日本の家は冬に世界でも最も寒い家になっています。これを物語るのが家庭内溺死率の高さです。
 ヒートショックと呼ばれる寒い浴室やトイレで死亡する人が多いことは「ヒートショック」と呼ばれ、血圧の上昇や血流量の増加に伴い血栓が剥がれて脳や心臓の抹消血管で血栓症を起こすものと考えられてきましたが、最近次のような状態で死亡する人も多いことが判ってきました。

1.  冷えた体を熱い湯の入った風呂に入れると体温が39℃以上に上昇して熱中症と同じ状態になり気を失う。
2.  寒い脱衣場で血圧が急上昇したあと、熱い湯に入ると血管が広がるので血圧が急に低下し、瞬間的に低血圧症になって気を失う。

 都道府県別に見ると新潟県を筆頭に日本海側や東北地方に家庭内溺死率の高い地域があり、温暖な沖縄県では人口あたりの家庭内溺死者は新潟県の70分の1未満です。また、一般的に全館空調が行なわれている北海道はさむい外気温度にも拘らず全国でベスト10以内に入る少なさをキープしています。

 今の日本は世界でも長寿な国になりました。その結果が世界でヒートショック死が最も多い国になっています。
 家庭内溺死者が急に増えるのは65歳以上の高齢者ですが、老人用住宅だけヒートショック対策をすればいいというものではありません。30代で家を建てても30年もすれば高齢者の仲間入りです。高齢者になってもまた家を建て直せる人はほとんどありません。ローンを組めない年代になると、家を建てられるだけの自己資金のたくわえがないと再建築は先ずできない相談になるでしょう。

 快適で安全な暮らしができ、期間費用の少ない長期間使える家を造ること、このことが「良い家」を造ることにほかなりません。

4.建設費と耐久性
 ローン支払いを基準にして 
 同じ性能の製品なら誰でも価格が安いほうが良いと思っています。
 電気製品や自動車を選ぶときでも、住宅を選ぶときでも、同じ性能なら誰でも安いものを選ぶに違いありません。

 性能が違っていれば価格と性能を比較して何を手に入れるかを考えます。
 車を買うときにマークX、セルシオ、BMWを比べる人は価格以外の性能やイメージなど非価格要因もあわせて比べている筈です。

 住宅を選択するときの非価格要因を持ち出すと「私はA社の家が好きだ」と言った好みの問 題に立ち入ることになるので、コストと性能から話が離れないように進めましょう。


 TOPICSでも取り上げてきたように、日本の建築物の寿命は非常に短いと言われていま す。

 平成8年の建設白書に、「住み替えが少ない理由」として次のように書かれました。

 「日本の住宅の寿命は、建築時期別のストック統計から試算してみると、過去5年間に除却されたものの平均で約26年、現存住宅の「平均年齢」は約16年と推測されるが、アメリカの住宅については、「平均寿命」が約44年、「平均年齢」が約23年、イギリスの住宅については、「平均寿命」が約75年、「平均年齢」が約48年と推測され、日本の住宅のライフサイクルは非常に短いものとなっている。」

 この数値はEV外断熱工法の宣伝本「日本のマンションにひそむ史上最大のミステーク」の75ページに、下の表のように取り上げられました。
先進5ヵ国の住宅サイクル年数
国 名
サイクル年数
イギリス
141年
アメリカ
103年
フランス
86年
ド イ ツ
75年
日  本
30年
(平成8年度建設白書」(建設省編)より
 お気づきだと思いますが、左の表にはフランスとドイ
ツが新しく加わり、「平均寿命」と「サイクル年数」は
建設白書の数値とは異なっています。

 左の数値がトピックスで取り上げた住宅情報2004年5
月12日号 特集「マンションって結局何年住める?」に
引き継がれています。

 建物が壊され建て替えられる理由にも耐用年数の到来以外のものがあるので、この種の統計は非常に難しいものがありますが、ヨーロッパの古い市街地には15世紀以来の石造や煉瓦造の建物が風雨に耐えて今に伝えられています。

 耐火建築物に対する住宅ローンの貸付期間35年は日本の住宅の耐用年数を基準にしているとも言われているので、上の表の数値はあながち的外れとは言えないのかもしれませんが、明快な根拠をお知らせすることは出来ません。

 建設費と耐久性を比較するとき、一番単純な方法は家の建設費を耐用年数で割ってみることです。
 建設費(C)を耐用年数(N)で割ると建物使用年数一年あたりの平均償却費C/Nが求められます。


 y=1/xのような反比例を示す形のグラフになります。

 このグラフでは耐用年数と建設費が比例している場合、年間平均償却費は同じ数値を示します。例えば2000万円で建てた20年耐久の建物と4000万円で建てた40年耐久の建物は同じように100万円/年の平均償却費がかかると表現される訳です。実際の経済活動の中では金利がかかりますから、3倍長持ちするからと言って、3倍の費用を掛けることはありません。

 「数学が苦手」だった方は無理に頭をひねる必要はありません。「長持ちする家はお金の負担が少ない」ということです。
 3000万円の家を30年間使えば1年当たり100万円の負担ですが、4000万円の家を50年使えば1年当たり80万円の負担になります。

 金利を考えた建設費と耐用年数の関係を示すものに、元利金等返済のローン返済額があります。次のグラフは金利を0%、および2、3、4%として横軸を返済年数としたときの元利金等返済額を示したものです。

 金利が0%のときは上と同じグラフになり、返済年数が短いときは上の平均償却費に近い数値を、返済期間が長い場合は建設費×金利に近い数値を示します。

 銀行などは35年以上の融資をしてくれません。どんな建物を建てても返済期間が35年だと50年長持ちする建物を建てても借入金に対する返済額の割合は35年しかもたない建物と同じ率になります。

 長持ちする建物を建てる動機を持ちにくいかもしれませんが、人よりいくらか余分な自己資金がある人は、自分で自分に投資することができれば、優れた性能の建物を実質的に少ない費用で持つことができるのです。



 金利を0〜4%に変えて35年返済と50年返済の返済額の比率を計算すると次の表のようになります。金利3%なら50年使える建物は35年しか使えない建物より建設費が2割ほど高くても使用期間の負担額は等しくなり、それより長持ちすれば実質的な負担は少なくなります。

 外断熱工法のRC建築物はRC内断熱工法の建物に比べて2〜3倍長持ちし、空調設備の設置・運転・維持に掛かる費用が大幅に少ないうえに、「温度のバリアフリー」による快適さを享受できますから、ローン返済や償却など金銭的に比較できるコストやメリット以外にも大きな利益があります。

金利
50年返済/35年返済
逆数
0%
0.7000
1.4286
2%
0.7955
1.2570
3%
0.8351
1.1974
4%
0.8688
1.1510

 建物使用価値を基準にして
 ここまでは、建物使用年数あたり建物工事費の支払いどれだけになるかを中心にコストを考えてきました。

 次に、建物の耐用年数によって建物の使用収益価値がどのように変化するかを考えます。このテーマはこれまでも何度か説明を試みてきましたが、なかなかうまく説明できていない項目です。判りにくいと感じた方は是非疑問に思われたことを質問してください。
 そういう応答の中でより判りやすい説明が出来ると思っています。

 平成8年の建設白書は日本の住宅が取り壊される平均寿命は26年、欧米の住宅を比較するとアメリカは45年、イギリスは75年で平均寿命を迎えていると記しています。

 ある建物を一年間使用できる価値を1と表現することにします。自分の持ち家であればそこに一年間住む値打ちが、賃貸住宅であればそこから一年間に上がる家賃収入が1になります。

 すると、日本の住宅は壊されるまでに26の価値を発揮するのに対して、アメリカの住宅は45、イギリスの住宅は75の価値を発揮することになります。


5.耐久性を決める要素
 家の耐用年数を決めるのは熱伸縮と熱と水蒸気の環境です。温度差の大きい家では低温になる部分で相対湿度が上昇し、カビや木材腐朽菌を繁殖させて建物の耐久性能を損ないます。

 また、年間を通じて大きな温度変化をするコンクリート躯体は熱伸縮によりクラック(罅割れ)を招きやすく、ひび割れから雨水が浸透するとコンクリートの劣化は急速に進むことになります。

 結露が起きる家は環境衛生的な問題を持つと同時に耐久性でも大きな問題を持つことになります。さらに、雨水が躯体コンクリートを濡らす家、特にクラックの入った内断熱工法の建物は短期間でコンクリートを劣化させ長期間使い続けるには不適当です。


木材腐朽菌 イドタケ(2005年8月東京都内で撮影)

 外断熱工法のRC建築物は内断熱工法の建物に比べて躯体温度が安定しているうえ、断熱材で覆われた躯体に雨水が浸透することがほとんどないので建物の耐久性が遥かに向上します。

 木造建築物では壁内部に湿気を溜めにくい充分な配慮をして建物構造体の乾燥を保たないと耐久性を高めることが出来ません。


6.維持費と快適性
 新しく造った家が快適で維持費もかからないものであれば一応の満足が得られますが、空調のために高いエネルギーの費用を払いながら熱さ・寒さに不快な思いをするのは堪らないことだと思います。

 ただし、快適さは経験してはじめて理解できる性質のものです。
 「温度変化が少なく室温がほぼ一定の家」が快適なことを、そういった住まいを体験したことのない方に話しても、食べたことのない食材について話を聞いたり、汲み取り式トイレしか使ったことのない人に水洗トイレの快適さを説明するようにほとんど理解されないかもしれません。

 一例として床面積120m2の住宅のQ値を1.5と4.5としたとき年間の空調費には8万円ほどの差ができます。Q値 1.5の住宅で約4万円かかる空調費を大きく減らすことは難しいと思いますが、Q値 4.5の住宅で暑さ寒さを我慢すれば約12万円かかる空調費の1割や2割を減らすことはそれほど難しくありません。
 従来の日本の家での生活は窓を開けて風を入れて暑さを凌ごうとするものでしたが、敷地が狭まり窓を開けるとプライバシーが損なわれるようになって、窓を閉めエアコンを使わなければ暮らせない時代になりました。

 Q値4以上のの建物では、Q値1.5の建物で完全空調するより多くのエネルギーを使い、暑さ寒さを我慢しながら生活しなければなりません。

 現在のエネルギー価格を基準にするとQ値の差( 3.0)がエネルギー費の差約8万円になりますが、この差が将来も変わらないということは出来ません。
 将来のエネルギーコストの変動分を見込んで割増して考えておくことも必要でしょう。


7.「良い家」の総合評価
 「建設費が安く、耐久性のある家」も「維持費がかかり快適に暮らせない家」だったとすると困ったことになります。

 建物がどの程度「いい家」なのかを測る尺度として、想定される耐用年数を返済期間とする毎年のローン返済額と年間空調費の合計を尺度として計算することを提案します。

 年間空調費は建物の耐用期間の平均値を採用するのが良いと思いますが、将来のエネルギーコストの予測は簡単ではありませんから、今のエネルギー費を使わざるを得ないでしょう。

 次のグラフは、2006年4月の「特集」でご紹介した内断熱工法と外断熱工法の総合評価の例です。



 外断熱工法の建物が10年ほど長持ちすれば外断熱工法のトータルコストが少なくなるのは明らかです。外断熱工法の建物は内断熱工法の建物の2倍以上の耐久性が期待できるので、充分な経済的メリットがありますが、そのメリットが現実のものになるまで数十年を要するので、なかなか身近に感じられないかもしれません。

 普通に建てた家が建て替えや解体解体の時期を迎えたとき、良い家は何の変化もなかったように住む人のニーズに応えつづけます。ヨーロッパはすでに住まいが良質の社会資本(ストック)になる社会を実現しています。
 私がこのサイトを読んでくださる読者に訴えたいのも、「よいストックになる建物にお金を使うことが、貴方にとっても、奥様やお子さんたちにとっても、最も豊かな未来を実現する第一歩になる」ということです。

 ISOの断熱WG座長を努められていたルンド大学のアーネ・エルムロート博士は、このことを「初めにきちんとした家を造ることが、最も安上がりになる」と言われていました。
 建替えや修繕のために大きなお金の支払いが必要になる家を建てるときにはその費用から目をそらさないでください。
 


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